第4回 研究会の活動報告


【日時】 平成26913日(土) 13001700

【場所】
 金沢大学 自然科学系図書館棟 G14会議室

【出席者】 尼形侑祐,尾形孔輝,小越咲子,小越康宏,鍛治嶺析,小林志穂里,白崎久美,高原彬,武澤友広,
       南保英孝,野村昌宏,三浦靖一郎,百瀬周,吉岡隆(計14名)


【活動報告】

 今回は,発達障害のある当事者から家庭生活や職業生活における困り感やこれまでに試した対処法について話題提供して
いただきました。

 この話題提供を受けて,福井大学の小越康宏先生から「ICFを用いた人間の状態記述―行動把握・学習支援システムへの
工学的応用―」と題して,当事者の困り感とその対処法を異分野の専門家の間で共有し,学際的な支援技術の開発研究に
取り組むための手段として,国際生活機能分類(ICFInternational Classification of Functioning, Disability
and Health
)という共通言語について講演していただきました。

 今回は研究会の参加者から寄せられた感想をもって活動報告とさせていただきます。


【話題提供者より】
話題提供をお願いされた時、自分の当たり前がどこまでが一般的な事なのか?と疑問になり、悩みました。就労がテーマでした
ので、この特性で困難になり就労につまずいたことにポイントを絞りました。色々とご意見をいただき、本人大変びっくりしました。
クセ、
性格、特徴は誰でも似たようなものを持っていますが、私が感じたことは困難が致命的になり身体に影響をおよぼすものであるか?
疲れによって凸凹が表面化した時、個人で対処できるレベルなのか?が重要な気がしました。

 ICFと機械関係の話題にて,特性で悩むと,自分で分析,目的を決定する時にテーマを決めて対処します。ICFほどではない
ですが,自分の行動や生理現象を細分化してテーマに当てはめていくと問題解決が確かにスムーズです。しかし,自分独自の
言語のため,療育,医療機関,学校で対処してもらう時に困ることもあります。ICFや行動のモニタリング,体の使い方などを
機械による目視ができれば,楽に行動分析ができると思いました。
このような情報技術はもっと身近に活用できる環境が整って
ほしいと思いました。

 企業側の対応もまちまちですが、しっかりと対処すると効果が上がる話も、中々できることではないので感心してしまいました。自分
と違う世界を想像しながら対処するのは、大変だと知っているからです。このような企業が増えていくといいなと思いました。


【大学院生より】

 実際に発達障害者の方からお話を聞くという貴重な体験ができてよかったです。また、聞けた内容がすごく密度の濃いもので、
実際の発達障害の方の現状というものが自分の想像以上に大変だという事が知れて、自分自身も気が引き締まりました。
少しでも役立てられるようなシステム作りを心がけたいです。

【大学院生より】

 今回初めてこの研究会に参加して思ったことは、メールの内容で第1回と書かれていたので、この研究会が初めて開催する
のかと思っていたが、実際は過去に3回開催されており、この研究会が実質第4回目の研究会であることをスライドを見て分
かったので、この研究会の奥深さを知ったことです。また、今回の研究会において、自分の研究に少しでもつなげることができたら、
自分の今後の研究に役に立てるかもしれないと思った。
 一つだけ残念なところがありまして、それは今回の研究会で発表した人が2人と少なかったことです。時間の関係上もありますが、
こういう機会はあまりないから、できるだけ多くの人が発表していただけたら、自分の研究につなげれる部分が多くあったかも
しれません。


【大学院生より】

 発達障害の方の話を聴いて、どんなことに困っているか、どのような感じ方をしているのか、非常に自分を分析されて分かりやすく
説明して頂いたので、障害者の方のリアルな状況の一片を知ることができてとても興味深かったです。
こちらの一方的な決めつけで
研究するのではなく、実際に当人達のことを知らなければならないなと思いました。

 また、ICFについては、私達の研究が工学、心理学、医学など色々な分野が繋がってお互いに問題を模索していける壮大な
計画だと知って感動しました。

 今回の学会に出席したことで非常に貴重なお話を聴けてとても有意義な時間をすごせました。

【大学院生より】

 今回のことでひとつの障害の形を知ることが出来てよかったです。学会のテーマでもありましたがニーズを知らずして技術もあった
ものではないと思います。本当に必要とされていることを調べることが先ず何よりも必要なのだと思いました。

 しかしながら一方で障害となっていることは人それぞれで似ているようで大きく違う所もあり、その重要度やベクトルは我々の
想像しうるものとはほど遠いことも多々あるようで、調べると一口に言っても事はそう簡単には進まないようにも感じました。
 今回の場合に関してだけ言えば、必要とされている機能(温度計や、湿度計、去年の同時期との比較など)は技術的に
夢物語ではないようなものがあり、より多くの話を聞くことで具体的な支援ツールも開発できるのではないかというようにも感じました。
それを踏まえた上でのICFによる各専門家の共通言語による情報共有というものはとても素晴らしいものであると思いました。
もしこれが確立し、システムとして機能すればその人にとって適切な支援やツールの開発が可能になり、得られるであろう多くの事例
をもとにさらに汎用的な技術支援なども可能になるかもしれないように思いました。
何よりもそんな貴重な体験をできる席に同席
出来たことをありがたく思うと共に、今後もさらに自らの研究に力を入れたいと思います。


【エンジニアより】

 当事者から生活の様々な場面における”困り感”について、貴重なご講演をいただくことができ、活発な討論も行うこともできました。
このような会を企画された先生と講演者に心より感謝申し上げます。
特に、ご講演は、様々な事例を体系的に整理され、論理的
かつ緻密なる分析をされており、それらをとても分かり易く解説していただきました。今後、本や論文として執筆するなどして、是非と
も多くの支援者や専門家と共有したい有益な情報であると思いました。

 今回、当事者・支援者・専門家のみならず、将来を担うであろう教育・工学の大学院生が5名も参加しました。研究会としての
本来の役割を果たしており、着実に成果を上げていると思います。


【エンジニアより】

 発達障害をもつ当事者の方の困り感やニーズと、社会に適応するために自分自身に課しているルールを紹介して頂きました。
身体的な事に関しては自身や他者の身体を守るためにも自分自身のルール必要なことであり有用であること、またツールで支援
できることも多いのではということと、その他の人間関係のルールに関しては自分自身を抑えすぎているのではないかということを感
じました。そのようなルールにせざるを得ない環境や社会の障壁をなくせるような支援や技術、また定型発達の方と対等な平等な
立場でコミュニケーションをするために自分自身の思いや考えを伝える技術が必要と思います。そのために例えば当事者が自分
自身用に作成したルールを記入できるようなシステムと、そのルールを少し変更してみたりすることを試すことを専門家が促したり、
他の人が似たようなケースで使用しているルールを紹介したり、アドバイスができるようなシステムがあるとよいかと思います。また、
そのためにICFも用いていけるとよいと思います。

 当事者の発表を拝聴し、支援者からの意見も伺うことができ、今後の技術について考えることができたことに感謝し、必ず研究
成果として当事者と社会に還元しなくてはならないと感じました。


【支援者より】

 Aさん(話題提供者)のお話は、とても勉強になるお話でした。お味噌汁のやけどの話などはユーモラスでしたが、そうした
“何気ない日常”から“何気ない情報”を感じ取る能力がすごいと思います。“感覚過敏”といわれるものでも、視点を変えれば、
“気づきを得る能力”と言い換えることができるのだとわかりました。

 とくにAさんの場合は、気づいたことを言葉にして、文章化する能力にも長けているので、説明がとてもわかりやすかったです。
Aさんのお話から得た気づきを,私も仕事のなかでも取り込んでいきたいと思います。

 ほか、Aさんが「頑張りすぎてしまう」「ストレスや疲労など自分の身体的な状況把握が難しい」と話されていました。その中で、
気温や湿度を数値化して、本人に示すデバイスがあるといいという話がありました。
ときおり聞く話なのですが、台風が来る前日
などに調子を崩す人もいるそうです。もしかしたら、気圧の変化などもストレスや疲労に関係しているのかもしれないと思いました。

気温、湿度のほか、気圧や高度、風速、時間、日時、季節、心拍など,もろもろを勘案して総合的な数値がでるとおもしろい
かもしれないですね。

【特例子会社の社員より】

 ご自身の特性を細かく分析し、多方面にわたる対応策を検討され、前向きに実行されていることに感心しました。また、体験
を交えたお話しは大変わかり易く、説得力のある内容でした。
特に、就労に関する「体力面」「精神面」「できることと」「苦手な
こと」などを分析され、どう対応していけば良いかについてのお話しは、企業として心強いものでした。企業からみた場合は、この
様な情報が的確に得られることにより、どういう配慮をすべきか、どの様な業務に適しているかなどの対応がスムーズになりますし、
現場の理解も得やすくなります。
 今回の内容と、少し異なった方向になるかもわかりませんが、障がい者の自立に向けた企業の役割は、今後益々重要になっ
てくると思います。
 法改正、世の中のニーズなどから企業に対する期待は大きく、多くの企業が障がい者雇用を理解し、積極
的に取り組むことが必要と考えます。そのためには、企業が雇用ノウハウを保有しながら就労環境を整備し、雇用能力を高める
ことが重要です。
当社への見学者の中には「雇用したが旨くいかず退職した」「障がい者にどの様な仕事をしてもらったら良いか
わからない」「経験がないため不安である」などの発言があります。
ある企業のトップの方は、「初めて障がい者を雇用したが旨く
いかなかったため、現場の受入れが難しくなり、次の雇用に踏み切れない」とのことでした。個人特性の把握、現場の受入れ
体制の整備と理解など、受け入れるための準備不足が旨くいかなかった要因であると考えられます。事前準備の内容、関連
するサポート機関の活用、雇用後の対応方法などについて説明をしました。
雇用経験の少ない企業にとって、一人ひとりの
特性を最初から理解するということは、難しいことであり、また就労してからでないとわからないことも多々あります。
今回のお話
しの様に、細かな分析と対処法がある程度明確になっていると、前述の通り企業としても対応が容易になると思います。
ただし
ここまで分析できる方は、少数ではないかと思います。関係者のサポートを受けながら、より詳細な個人特性を企業に伝える
ことで、雇用の場が広がるとともに継続的な雇用につながると思います。
貴重なお話しをお聞かせいただき、ありがとうございました。

 次回の研究会は12月の下旬に福井で開催する予定です。テーマは「ニーズをきく技術・伝える技術」になる予定です。
                                                         
                                                           報告者:武澤 友広