第18回 研究会の活動報告

【日時】 平成29年11月6日(月) 13:30〜16:30


【場所】 株式会社サンキュウ・ウィズ


【出席者(敬称略、五十音順)】 伊津見一彦,小越康宏,武澤友広,三浦靖一郎,南部淳子(計5名)


【活動報告】

 東京都にある株式会社サンキュウ・ウィズ様にお邪魔し、職場見学をさせていただきました。この会社は山九株式会社が「障害者の雇用機会を積極的に創出し、社会的自立を支援すること」を目的に平成19年5月24日付で設立され、平成19年6月1日付で特例子会社としての認定を取得されています。

 今回は、パソコンのキッティング業務の様子を見学させていただきました。最も印象的だったのが「働きやすい職場環境は働く人が主体となって創り続ける」という姿勢です。例えば、業務の精度を確保する工夫として、「どの工程までやり終えたか」を作業者と管理者が相互に確認できる工程管理表を兼用した業務の手順書を紹介していただきましたが、この手順書も作業のミスが起きた時に、そのセクションの管理者と業務担当者で「なぜ、そのミスが起きたか。どのように職場環境を変えれば、そのミスが防げるか。」を話し合って、内容を更新し続けているとのことです。ミスの原因を業務担当者の特性に求めるのではなく職場環境に求め、職場環境を改善するヒントとして活かすという当社の姿勢は、「失敗しても、必要以上に自分を責める必要はない。次からどうすれば同じ失敗を繰り返さずにすむかをみんなで考えればいい。」といった社員の安心感につながっているように思いました。そして、このような持続的な職場環境の改善は高い生産性につながっており、それが働く人たちの自信につながっていく、という過程が、業務成績に関するプレゼンをしていただいた社員さんの自信にあふれた表情から窺い知ることができました。

 見学の後の研究会では、徳山高専の三浦さんからは「特例子会社の職場環境の改善に関するノウハウを社会で共有することは、共生社会の実現に向けた有効な方法である」というコンセプトに基づく数々の実践をご紹介いただきました。特例子会社は障害のある労働者のための「特別な」仕組みと思われがちですが、そこで生み出される配慮や工夫は、障害のない労働者にとっても、あるいは言葉でのコミュニケーションが難しい海外の労働者にとっても、優しい配慮につながり、業務効率をあげることにもつながるのではないか。特例子会社で生み出されたノウハウこそがスタンダードになるべきではないか。このような考えに基づき、精力的に展開されている活動は今後も大きく展開していきそうで、期待が高まるお話でした。

 次に、福井大学の小越さんからは発達障害のある児童生徒を対象としたプログラミングに関する教育プログラムの開発についてのお話を伺いました。児童生徒に楽しくプログラミングを学んでもらうために、ゲーム感覚を取り入れた教材を開発されていました。また、自己肯定感に配慮して、ポジティブフィードバックを丁寧に行うなど、教育対象を考慮した工夫も導入される予定だそうです。発達障害者の職域拡大につながるプロジェクトで、こちらも今後の展開が非常に期待されます。

 最後にお忙しい中、見学にご対応いただいただけでなく、研究会にもご参加いただいた株式会社サンキュウ・ウィズの代表取締役社長の湯本憲三様、本研究会のメンバーでもある取締役業務部長の伊津見一彦様、そして社員の皆様方に厚くお礼申し上げます。  


報告者:武澤友広


 以下、他の参加者からの感想です。




 先ずはじめに、今回このような機会を設定してくださいました伊津見様にお礼申し上げます。

<見学会>

 手順書とチェックシートを一つにまとめる視覚支援によって作業工程を確認しながら一つ一つ確実に完了すること、他者がWチェックできる仕組みとなっており「わからない」「忘れた」という機会を減らし主体的に取り組めるよう業務がマニュアル化されている点や「クリアケース上のPC写真と同じ位置の磁石に外したねじを置く」「タオル絞りの力加減がわからないのでスケールを用い目視確認」など、困り感から適切な工夫や配慮がなされており障がい者が自信をもって作業に取り組めていました。あわせて個人の障害特性や作業遂行能力、共同作業者との相性状況把握により適正な配置についていること、明るい職場環境により継続的な就労につながっていると考えられます。

 また、トラブルがあった時にはサンキュウ・ウィズと保護者・寮支援者(連絡帳で情報共有化)、支援センターと連携がとれていることで即時的な対応が可能となっている。昼食後の勉強会は「できることだけ」から障がい者の成長の可能性をみて社員教育を行っているところに感銘をうけました。雇用を増やすため更なる業務開拓を目指している企業努力に頭が下がります。保護者、寮支援者との間で連絡帳による情報交換が行われている点につきましては小越先生の個別教育支援システムを利用することで情報の共有化および当事者の生活面や作業面での管理に有効ではないかと考えます。

<研究会>

 小越先生、三浦先生発表ありがとうございました。福祉・工学・教育・心理・医療など多種多様な職種で構成されている委員間で情報交換を今までも行ってきましたが個々に行っている活動が研究会を通して集結し強化され個々に還元されるサイクルが既にできているように思います。研究会メンバーの活動や研究成果などの情報が共生社会の実現に寄与するところが少なからずあり、この「発信する」と云うことがすでに支援であり就労支援技術研究会の社会的な役割、在り方の一つではないかと思わせていただきました。


南部淳子




 今回は,障害者雇用の拡大,障害者の職域拡大をはじめ,親会社との関係から持続可能な仕事の切り出しを具体的にご検討なされていることに非常に感銘を受けました.社員の雇用の場の確保を最優先とし事業運営に取り組んでおられることで培われる,風通しの良さや会社の良い雰囲気が伝わってきました.

 蓄光テープやウェスはかりなど随所に社員の安全や特性を考慮した工夫をされておられて関心しました.ぜひ,社内で名称を募集していただき,会社の目玉にしていただければと思います.

 また,働く障害者に寄り添い,よい環境をコーディネートできる人材が,特例子会社だけでなく親会社にも必要だと改めて感じさせられました.職場環境を良くするコーディネータに必要な素養は何か,改めて考えたいと思います.

 今後,貴社をはじめ特例子会社の良さを広めていき,障害に対する国民の理解度が向上してよりよい社会の構築を目指したいと思いますので,今後ともご指導・ご協力をよろしくお願いします.


三浦靖一郎




 「?サンキュウ・ウィズ様の見学会では、障害者の方々が目標を持ってやりがいを感じながら仕事に励まれている姿がとても印象的でした。何より、いわゆるジョブコーチの役割に相当する職員の方の手腕、業務改善における斬新なアイディアには目を見張るばかりでした。職務内容や障害者支援に対する経験や知識が豊富であることに加え、ご本人の才能や努力も感じられました。

 これから、新たに障害者雇用を検討している事業者においては、このような健全なる支援者(在籍型のジョブコーチ、メンター等)の存在が欠かせません。我々就労支援技術研究会においても、これらの支援者となるべく人達の研修会や育成をサポートできればと考えております。


小越康宏