第1回 研究会の活動報告

日時 2013928日(土) 13:30 〜 1:00


【場所】  福井市地域交流プラザ 6階 研修室606


【出席者】 伊津見一彦,小越咲子,小越康宏,小林志穂里,小杉真一郎,笠羽涼子,近藤周吾,丸山正男,三浦靖一郎,中井昭夫,南保英孝,野村昌宏,尾形孔輝,白崎久美,武澤友広,坪川直穂子,吉岡隆(17名)


【目的】  1.研究会の目的を共有し,活動計画を決定する。


       2.支援対象についての理解を深め,参加者各自が研究会活動における役割を探る。


【活動報告】


初の研究会となる今回は,会の目的をメンバーで共有し,各自が果たせる役割を探ることを目的として開催されました。


最初に,障害者の就労支援に関する研究機関である障害者職業総合センターの武澤より,研究会の主旨と活動計画についての説明を行いました。周知のとおり,わが国は,非正規雇用の増加をはじめとして,安心して働き続けることが難しい時代を迎えています。障害者の就労に関していえば,身体障害とは異なり,一見して障害が気づかれにくく,当事者さえも障害に気づきにくい「発達障害」のある人の就労支援が喫緊の課題となっています。本研究会では,工学を中心として,教育,医療,福祉の専門家と企業が協働することで,障害のある人の就労支援に役立つ支援技術を開発することを目的にしています。当初の目標として「3年間で一つの支援対象者のニーズに基づく支援技術を開発すること」を掲げました。


次に,各メンバーからの自己紹介があった後に,社会人育成の現場,あるいは就労支援の現場において障害者支援に携わっているメンバーより話題提供がありました。各話題提供の概要と主要な議論は以下の通りです。※敬称略


小越咲子(日本学術振興会・福井大学)「教育と産業をつなぐ発達障害児者の支援システムの開発」


自身が開発された発達障害児の行動履歴を保護者,教育機関,療育機関,就労支援機関で共有し,協働による支援を実現するためのデータベースを紹介されました。このシステムは,学校での児童の様子を教員がチェックリスト方式で記録し,その記録が保護者の携帯電話に送信されることで,児童の情報を教員と児童が共有するというものです。ただ,コストベネフィットを評価するための情報が不足しているために,教員に積極的に利用してもらえないという課題があるとのことでした。教育現場の専門家からは1例でもよいので,システムの効果を実証し,ベネフィットを教員にアピールする必要があるとの意見がありました。開発した支援技術をどのように支援の現場に根付かせるか,重要な論点を提供していただきました。


坪川直穂子(ブロンマ福井)「学習障がい児への学習支援」


 実践されている学習障害児に対する情報技術も活用した学習支援の事例について紹介されました。例えば,「作文が書けない」という主訴がある子どもに対して,まずは困り感を子どもから丁寧に聴き取り,情報技術を入れずに支援を行います。実際の子どもの活動の様子を観察しながら,必要であればIPadのアプリ等の情報技術を導入して,認知機能の障害を補います。今回は情報技術の例として,「筆順辞典」「7notes」を紹介していただきました。前述のとおり,発達障害は当事者自身も気づきにくいものであり,困り感を自覚していない場合が少なくありません。今回,紹介されたような丁寧なアセスメントが,本研究会が目指している「支援対象者のニーズに基づく支援技術の開発」にとって重要になります。


  近藤周吾(富山高等専門学校)「演劇による社会性の育成」


 発達障害のある生徒が演劇経験を通して,社会技能(場面に適した感情表出など)を学んでいった事例が紹介されました。例えば自閉症スペクトラム障害のある人はその認知特性から,場面に適した感情を無意識的に学ぶことが難しいことが知られています。演劇という活動を通して,意識的に,知識として,場面に適した感情表出の仕方を教えた取り組みを紹介していただきました。社会性は知識として教授できるということの実証であり,工学的支援技術のターゲットには社会性も含みうるという可能性を提示していただきました。


  笠羽涼子(大日園)「障がい者就労支援について」


 最後に,就労支援事業所「ステップハウス」での障害者の就労支援の取り組みについて紹介していただきました。自動車電子部品の組み立て作業や廃油石鹸液製造・販売など手作業による職業訓練の実践が紹介されました。抱えている課題として,「工賃の高い仕事の構築」「個々の特性・興味に合致した仕事の開拓」「利用者の社会性の育成」「実習・就労先の確保」が挙げられました。また,開発を期待する支援技術として「障害者の苦手を補い,強みを活かすことができる支援技術」「個々の職業適性を的確,客観的に評価できるツール」などが挙げられました。大日園さんのような就労支援の場で活用されるような支援技術の開発を目指して,技術開発のフィールドとしても協力をお願いできれば,と思っています。


 以上,今回は障害者もしくは支援者の支援を実践されている専門家の方々から話題提供をいただきました。今回,実践家の方々から出された課題に応える形で,次回は技術開発を専門とされているエンジニアの方々から話題提供をいただく予定です。就労支援の現場のニーズと学者が持つ技術シーズの間にはまだまだ距離がありますが,本研究会は支援の実践家と技術の開発者が協働するための貴重な場です。各メンバーが経験に裏づけられた専門性を発揮しあい,協働することで,就労支援に貢献できる技術を開発しましょう。


報告者:武澤友広