第10回 研究会の活動報告

【日時】 平成27912日(土) 13301630


【場所】 福井地域交流プラザ 


【出席者】 尾形孔輝,小越咲子,小越康宏小林志穂近藤周吾,白崎久美高原彬武澤友広,南部淳子南保英孝,三浦靖一郎,山中康弘吉田健吾(計13名)


【活動報告】


 今回は、就労準備支援教材の開発状況を報告した上で、改善点についてメンバーで話し合いました。発達障害のある人の支援経験が豊富なメンバーからは教材の情報の提示方法について、支援経験に基づく実践的な助言をいただくことができました。また、演劇指導に携わっているメンバーからは教材に登場するキャラクターの感情表現について専門的な助言をいただくことができました。


 議論の中では、いろいろと興味深い話題が飛び出しましたが、その中から一つ紹介します。それは「フィードバック」についてです。本教材のメインのコンテンツは「職場における適切な自己主張の仕方」を学べるクイズです。クイズである以上、ユーザーが回答の選択肢(言動)を選んだら、その選択肢が正解か(他者に不快感を与えることなく、自分の思いを伝えることができる)、不正解か(必要以上に他者に不快感を与えたり、自分の思いを伝えることができない)をフィードバックすることが一般的です。しかし、自己評価が低い児童の場合、「不正解」のフィードバックを受けることで、必要以上にネガティブな感情が喚起され、教材を使用するモチベーションが低下してしまう恐れがあります。かといって、どの言動が他者に不快感を与えやすく、どの言動が相手に不快感を与えにくいのか、フィードバックをしないことには教材として機能しません。


 メンバーで話し合った結果、「どの言動が正解で、どの言動が不正解か」をフィードバックするのではなく、「ユーザーが選択した言動が他者にどのような印象を与えるか」をフィードバックするにとどめ、「どの言動が望ましいのか」はユーザー自身に考えさせてはどうか、という意見に収束しました。「どの言動が正解で、どの言動が不正解か」を直接的にフィードバックした場合、ユーザーの関心が正解をあてることに集中してしまい、なぜ、その言動が望ましい、あるいは望ましくないのか、その理由を考えることにつながらない恐れがあります。勝ち負けにこだわりのある子が教材を使用できるようにするためには、この点についても配慮が必要でした。


 このように、ユーザーの特性に適した配慮を各メンバーの専門知識や経験、障害のある人の使用感から導出していく過程はエキサイティングなものです。開発品に対して障害のある人から使用感を聴き取ると、自分が考えていた「見やすい・わかりやすいデザイン」が当事者からは「混乱する・違和感を与えるデザイン」になっていることもあります。そのような思い込みが覆される経験をすることで「人の多様性」を思いしり、ユニバーサルデザインを考える難しさと面白さに気づくことができます。


報告者:武澤友広