第6回 研究会の活動報告

【日時】 平成261220日(土) 13301630


【場所】 福井地域交流プラザ 研修室606


【出席者】 尾形孔輝,小越咲子,小越康宏,近藤周吾,白崎久美,武澤友広,坪川直穗子,南部淳子,南保英孝,野村昌宏,廣澤愛子,三浦靖一郎,吉岡隆(計13名)


【活動報告】


今回は「ニーズを把握する技術」というテーマで、福井県発達障害児者支援センター スクラム福井の野村さんと徳山工業高等専門学校の三浦さんから話題提供をいただきました。


野村さんからは、福井県発達障害児者支援センターにおける活動内容を支援事例の紹介なども交えながら説明していただきました。センターの相談支援件数は増加傾向にあり、その多くを「就労に関する相談」が占めているそうです。具体的には、「転職を繰り返してしまう」「仕事が長続きしない」「コミュニケーションを学びたい」「本人に向いている就職先を教えてほしい」といった相談があるとのこと。そして、支援対象者の特性を把握する方法としては、福井県方式アセスメントツール「子育てファイルふくいっ子」を使用しています。このツールは、比較的容易に「客観的」「多角的」なアセスメントが行えることが特徴で、ケースの引き継ぎや、定期的なモニタリングなどに有効とのことでした。


一方、三浦さんからは、徳山工業高等専門学校の学生相談室を中心とした学生支援のとりくみについて紹介していただきました。今回の話題提供では、大人数を対象とした「集団対応」を中心に紹介があり、この対応は「学生支援の入り口」として重視されていました。集団的な対応を下記の4つの要素に整理して、全ての学生に優しい学習・生活環境の提供をどのように実現しようとしているか、を説明していただきました。①特別支援教育士養成セミナーをはじめとする研修への参加を通した「ソフト面の整備」、②検査器具の導入やデータベース環境の整備による「ハード面の整備」、③Uテストの実施とその結果を踏まえた相談支援をはじめとする「学内活動」、④近隣中学校などとの「外部連携」


 以下、研究会の参加者から寄せられた感想を紹介します。


 【エンジニアより】


高専のシステムと学生支援についての取り組みについてよくわかり良かったです。技術者研究者を目指す学生の教育育成において三浦先生のように技術系理系の先生が心理学や発達障害支援を学び支援をすることが学生を理解して支援する上で重要と思います。野村さんの発表で、コミュニケーション能力とは一体何かというと漠然としていて分かりにくい、というお話で考えさせられました。また、穴に落ちた例を挙げ、穴に落ちたら穴から脱出する方法をまず考えるのが普通だけれど、発達障害者は何故穴に落ちたかを考えてしまうという特性があるという説明が分かりやすく納得しました。


 【支援者より】


話題提供、発表をしてくださった野村さん、三浦さんありがとうございました。三浦先生の取組は【合理的配慮に基づいた学生支援】ということで学生の心のケア、悩み相談+学習支援を現有資源を活用して自然に(支援を前に出さない)行われていて支援体制が整っていることに驚きと感銘を受けました。学校や職場において困難が自覚されておらずトラブルになるケースが多々あると思われます。野村さんのお話しより支援が必要とされる場面でもクローズの場合、「支援している人が会社に入れない」、「どんな問題が起きているのかわかりにくい」、など環境調整が難しいなかスクラム福井さんは当事者の相談を受けるだけではなく、企業へ出向き対応のアドバイスやトラブルがあった際の対処もなされていてニーズとシーズが合致している理想的な取組みだと思いました。お二方の取組みに共通するのは三浦先生のお言葉にあった「ニーズを把握する技術」に長けていることなのかなと感じました。「先回りして本人のニーズを満たしてしまうと隠れたニーズが把握できない」と野村さんがおっしゃったように、どの段階でどのような支援をすべきかというのが課題になるのだと思いました。自己責任と自己理解の話しをうかがいながら特性についてのチェックシートを作成してはどうか?どのような職種や作業内容が向いているのか診断することで、進路や目標を立てる一助になり、また義務教育期間中にあるキャリア教育(職場体験など)にいかせるのではないか。《特性に即した職種を選択する支援技術》。教育プログラムの中に組み込めば障害理解の有無や診断の有無、クローズ等、問わずユニバーサルデザイン、すべての人への支援に繋がるのかな?とぼんやりながら考えていました。今回、初参加でしたが貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。


【心理学者より】


お二人の話題提供者のお話を聴かせていただきながら考えていたことは、「就労までに、教育現場で何ができるのか」ということです。私自身がこれまで係ってきたのは、主として、発達障害とその二次障害を抱えた生徒(事例)です。これまでの臨床経験と今回の研究会を通して思うのは、「就労する年齢に達するまでに、いかに自己肯定感と自己受容感、そして自己理解を深められるか」が肝になるのではないか、ということです。義務教育(小中学校)段階までに自己肯定感と自己受容感を深め、高等学校に居る間に、自らの障害について理解を深め、他者に助けを求めることのできる人になれたら・・・、と思います。スキルを身につけることよりも、真の意味で「自分を受け入れて、他者を信頼できる」人になることができれば、社会に出ていくことが可能になるように思います。ここでいう自己肯定感や自己受容感とは、「自分はこれでよい」といういい意味での感覚であり、同時に、自分の足りていないところを認めて改善しようとする「自己否定」の力も含んでいます。自分を受け入れているからこそ、自分の足りないところを真摯に受け止めて、自己を否定し、より良い人間になろうとする力もある、という意味合いです。自己否定する力は、発達障害の有無にかかわらず、自らに対する内省性が求められます。就労する年齢に達するまでに、この内省性を含んだ自己肯定感や自己受容感、そして自己理解を有することができるよう、教育現場でどのような教育的支援ができるのかを真摯に考えていきたいと思います。そして、社会に対しては、本人が持っている能力が最大限に発揮できる環境を創っていただけるよう、働きかけていきたいと思います。お二人の話題提供者のお話を聴きながら、丁寧で、現実に即した濃やかなお仕事ぶりに、本当に頭が下がる思いがしました。私も、お二人を見倣って、自分にできることをコツコツやっていこうと改めて思いました。ありがとうございました。


 【特例子会社の社員より】


スクラム福井のお話しでは、就労に関する相談件数が一番多くあるとお聞きしましたが、幼児期から成人期までの一貫した取組みは、成長過程において何が得意で、何が不得手かを把握することで、近い将来どの様な職種に適するかを見極めながら、企業等と早期にコンタクトをとることにより就職率、定着率の向上に繋がる有効な取組みではないかと感じました。また、このことが就労に関する相談件数を減少させることにもなる様に思います。徳山工業高等専門学校の取組みで、合理的配慮と支援についてのお話しがありました。大変重要なことだと思います。これは、障害者雇用の場においても全く同様のことが言えると思います。できることと、できないことを明確にし、できないことをできる様にするためにどうしたら良いかを考えます。当然本人の努力は必要ですが、努力だけでは特性上どうにもならない場合があります。この時、特別扱いではなく合理的な配慮と支援ができるかできないかで、就学・就労環境は大きく変わると思います。この様な取組みが拡大していくことと、繋がっていくことが重要と感じました。特に感じたことのみ記述しましたが、他にも共感する内容が多々あり大変有意義なお話しでした。ありがとうございました。


 次回は20152月に山口県で開催する予定です。本研究会が契機となって実現したオムロン京都太陽での徳山高専の学生さんのインターンシップの成果についてご報告いただきます。