第21回 研究会の活動報告

【日時】 平成31年3月23() 13:3015:30


【場所】 TKP東京駅日本橋カンファレンスセンター ミーティングルーム216


【出席者】 大畑真輝、ソルト、武澤友広,三浦靖一郎、非研究会員2名(計6名)


【活動報告】


 今回は「発達障害者を支援する技術」をテーマに、発達障害当事者と支援技術開発者から話題提供をしていただき、ニーズとシーズのマッチングについて検討しました。


 発達障害当事者であるソルトさんからは、「働く上でどのようなことに困ってきた・いるか」「その困難にどのように対処してきたか」「自分が働きやすい条件とはなにか」「その条件を整えるためにどのようなアシストがあると助かるか」等についてインタビュー形式でお話を聴きました。ソルトさんが困ってきたことのひとつに「対人距離の取り方」が挙げられました。対人距離を測り、縮めていく上では、相手が自分に対してどのような感情を抱いているか、どのような行動は相手にとって快で、どのような行動は相手にとって不快なのか等を推測しながら、行動することが必要になります。しかし、発達障害の特性により推測する材料が限られてしまうため(この状態をご本人は「コミュニケーションの近視」と名付けていました)、周囲の人と仲良くなりたいという望みをもっていっても、相手の感情を的確に推測して行動することが難しいと話していらっしゃいました。そのような困り感に対して、ソルトさんは対人関係だけに心を捕らわれないために、一人の時間を充実させることも大切にされているとのことでした。


 発達障害者の就労継続を支えるシステムの開発に取り組む大畑さんからは、「自己理解サポートシステム」の概要についてご紹介いただきました。発達障害のある人には「自分の感情やストレス、疲労」といった内的状態を把握することが難しい人がいます。そのため、「どのような職務にストレスを感じやすいのか」「どのような職務だと没頭しやすく、疲労を感じにくいのか」など、自分の内的状態と職務内容をうまく関連付けることができず、自分に適した職務に関する理解が進みにくいことがあります。そこで、上記サポートシステムは、センサーで感情やストレスを感知する一方で、日々の職務内容等の記録を促し(日報の記録)、記録された出来事とセンサーで把握した感情を対応付けて蓄積することで、自分に適した職務内容や自分の特性を理解する上で必要なエピソード記憶の収集をサポートします。また、単にエピソードを収集するだけではなく、収集したエピソードから自己理解を促す情報をAIを使ってフィードバックする機能や雇用管理に役立つ情報を企業の人と共有する機能も実装されるようです。


 上記の話題提供に基づき、参加者でニーズとシーズのマッチングについて議論を行いました。参加者からは「SPISなど既存の日報システムとどのように差異化を図るのか」「自己肯定感が低い当事者だとネガティブな出来事ばかりが偏って記録される恐れがあるため、時にはシステムからポジティブな出来事の記録を促すような働きかけがあるとよいのではないか」「コミュニケーションに関する出来事については、本人の解釈だけでなく、相手の解釈に関する情報も記録しておかないと、コミュニケーションの改善につながる情報をシステムから提供することはできないのではないか。相手の感情もセンシングして記録するような仕組みも必要なのではないか」「システムが本人にとっても企業にとっても良い効果をもたらすためには、システムについて本人も企業も正確に理解し、効果的に運用するための合意を形成しておく必要があるのではないか」といった意見が出されました。


 発達障害を含む精神障害者の雇用の大幅な増加が見込まれる今、認知機能に障害のある人の就労をサポートするテクノロジーの開発が活性化し、合理的配慮の幅が拡大することを願っています。


 


報告者:武澤友広